地図師の机には、完成した地図よりも余白の方が多く積まれていた。描かれなかった道、名前をつけるべきか迷った川、誰にも見せないまま折り畳まれた寄り道の記録。そのすべてが、旅のあとでしか生まれない線だった。
若い旅人はその余白を買い取り、道中で自分の歩いた場所を書き足していく。正しい地図ではなく、自分が躓いた石や、雨宿りした軒先の位置を残すための地図だ。だから街に戻る頃には、紙面は目的地より途中の印でいっぱいになる。
彼が最後に書き込むのは、到着の印ではなく、もう一度そこへ戻りたいと思った場所だった。