まだ朝になり切らない色のなかで、街の石畳だけが先に音を返し始める。旅芸人の少女は楽器箱を抱え、橋の中央で立ち止まった。水面ではなく空のほうから、自分の弦に似た震えが降りてくる気がしたからだ。
彼女の弾く旋律は、誰かの記憶と共鳴するために作られている。だが今朝は、聴き手のいない橋の上で、まだ名のない旋律だけが先に完成してしまった。箱の蓋を半分閉じたまま、少女は最後の一音をためらっている。
薄明の時間にしか現れないその響きが、やがてひとつの旅の始まりとして記録されることを、彼女はまだ知らない。
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まだ朝になり切らない色のなかで、街の石畳だけが先に音を返し始める。旅芸人の少女は楽器箱を抱え、橋の中央で立ち止まった。水面ではなく空のほうから、自分の弦に似た震えが降りてくる気がしたからだ。
彼女の弾く旋律は、誰かの記憶と共鳴するために作られている。だが今朝は、聴き手のいない橋の上で、まだ名のない旋律だけが先に完成してしまった。箱の蓋を半分閉じたまま、少女は最後の一音をためらっている。
薄明の時間にしか現れないその響きが、やがてひとつの旅の始まりとして記録されることを、彼女はまだ知らない。