ポロロロっと電子音が鳴り響いた。
混雑したホームの雑音をかき消したその音で、二人だけみたいになっていた世界が開いてしまった。
「そろそろ行かないと」
政道の言葉に、俺は思わず息を飲んだ。
「透、またどこかで会えるよ」
そう言って政道は、握っている俺の手を離そうとしたから、離さないようにぐっと力を込めた。
「本当に?」
確かめたいわけじゃない。
むしろもう、いっそのこと会いたくない。
「そりゃそうだろ。同じ空の下で生きてるんだから。ただ」
一度息を止めた政道が、視線を落とす。
相変わらず電子音は鳴り続けていて、駅員が特急電車に乗るのを促す放送をしている。
「ちょっと、俺たちの関係が変わるだけだよ」
そう言って今度は、逃れるように手を引いた。
同時に手から力を抜けば、お互いの距離が開く。
俺よりも広い背中を見送る。
「政道」
電車に乗り込んだ政道に声をかけた。
名前を呼ぶのは、これできっと最後だ。
「元気で」
言い終わる前に、電車の扉が閉まる。
口の動きだけで伝わったのだろうか、政道が笑顔で頷いたのがドア越しに見えた。
「 」
ドアの窓に映る政道の唇が動いた。
何を言っているのか必死に聞こうと、理解しようとしているのに、その姿が遠のいていく。
電車のスピードが早くなり、開いた政道との距離を示すように体を叩く風が強くなる。
でもその風は、人知れず溢した涙も一緒に連れて行ってくれた。
特急電車を見送るホームの雑音は、もう聞こえなかった。