Arknights:Endfield / The Last Memory

#09 独りの時間

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 残業を終え、管理人は家に着くなり玄関の電気もつけないまま靴を脱いだ。ダイニングに付くまでの暗く短い距離の間に、片手でネクタイを緩め、深くため息をつく。

 今日は製造元の手違いで、製品に不具合が出た。

 商社勤めとしてはよくある話だが、取引先に頭を下げに行くのは、いつだって気持ちのいいものではない。製造ラインを見直すことや、機械を直すことはできるものの、製品そのものを直すことはさすがにできない。職場に戻ったのはもうとっくに日が暮れた後で、そこから報告書と始末書、対策案をまとめた資料まで作り、会社を後にしたのは終電ギリギリだった。

 エンドフィールド工業は業績を伸ばしてはいるものの、その分仕事は増え、しわ寄せはいつだって何でも屋の営業部に来る。

 途中まで一緒に残業をしていたチェンとペリカが終わるまで手伝うと言ってくれたものの、女性に暗い夜道を歩かせるのは心配なので、早々に帰ってもらった。

 

 すぐに暗闇に慣れた目で、壁に当たることもなくダイニングに行き、そのままキッチンに向かった。

 冷蔵庫に手を伸ばし、扉を開ける。冷たい箱の中から溢れた光に目を細めたが、残業続きで買い物にも行けておらず、ロクに食べるものも見つからない。食欲のピークも過ぎてしまってしまい、そもそも一人だと食べることが面倒になってしまうので、何も手に取らずに冷蔵庫を閉めた。

 そのまま自室ではなく、隣の部屋へと足を向ける。部屋の主は長期の撮影のため不在だ。何日か前に1週間ほど留守にすると言っていた。

 しかし、残業中に来たメッセージには、もう少し撮影日程が伸びる旨が書かれていた。

 どちらにせよ今日は帰ってこないことはわかっているので、勝手に部屋に入るのは申し訳ないと思いつつ、部屋の扉を開けた。

 自分の部屋と同じく殺風景な部屋。作業用のデスクとベッドがある部屋には、他にも仕事に必要な機材や本が、ステンレス製のラックに並んでいる。整理整頓されている部屋は、主がいないと余計に殺風景に見え、暖かく過ごしやすい一日になるでしょうと言っていた朝の天気予報とは違い、肌寒ささえ感じた。

 管理人はそのままベッドに向かうと、うつ伏せに倒れ込んだ。

 引っ越しのとき、お互いプライバシーも大事だと部屋を別にした。特に、恋人は家で仕事をすることも多い。部屋を分けたのはよかったが、ベッドを分けた意味はなかったのではないかと薄々思っている。

 だって、彼が出かける前日も、自分はこのベッドで寝たのだ。

 戯れで始まったキスからなだれ込んで、しばらく会えないからと好き勝手に体を弄られた。もちろん嫌なわけがなくて、散々乱れてしまった記憶は、まだ鮮明に残っている。

 そんな熱い夜の名残を微塵も感じさせないシーツは、きっと自分が仕事に行っている間に変えられてしまったものだ。肌触りの良い黒いシーツに顔を埋めたまま息を吸うと、優しい石鹸の香りがした。

 なんだか物足りなくてベッドの上を見渡す。

 枕元には、普段彼が寝るときに着ている部屋着が、脱いだまま放置されていた。

 手を伸ばして、部屋着を引き寄せる。顔を埋めると、一気に恋人の香りが鼻腔から全身へと入ってきた。

 余計に体を弄られた夜を思い出してしまい、じわじわと下半身に熱が集まってくる気がする。自然と伸びた手でスラックスの前を寛げると、そのまま下着に手を差し込んだ。片手で緩く自身を握り込み、もう片方の手で部屋着を握りしめたまま、その香りを肺いっぱいに吸い込んだ。

 

『管理人』

 

 記憶の中の恋人が呼んでくる。

 目の前にいるわけではないのに、頭の中にいる恋人の姿だけで、自身は簡単に勃ちあがった。

 あの日も、大きな手に陰茎を握られながら指先で先端を擦られ、時折睾丸を揉むように撫でられれば、我慢もせずすぐに吐精してしまった。

 その順番を辿るように、自らの手を脳内で恋人の手に置き換えながら、性器を弄る。しかし、先ほど簡単に勃ちあがったはずの自身は、それ以上反応を見せない。

 

『ここ舐められるの、好きだよな』

 

 脳内で甦った声に導かれ、じんっと胸の突起が反応した。甘い声に指摘されただけで、まるでそこを擦られている気分になる。

 恋人の部屋着を顔に押し当てたまま、ワイシャツ越しに胸の突起を擦れば、下肢までその刺激が伝わったのか、性器の先端からとろりと先走りが溢れた。

 その先の刺激に期待して裾を捲り上げ、直接胸の突起に触れてみた。爪先で引っかくように触れれば思わず体が震え、摘まんで指の腹で擦れば、性器を擦り続けていた手も思わず早くなる。

 

「っ……ん、んっ……キャトロっ……」

 

 しかし、いくら刺激しても、切なく疼く腹奥は満たされない。

 ズボンと下着を膝程まで蹴るようにしてずらし、性器を扱いていた手を尻の間へと移動させる。濡れた指先で蕾に触れれば、指を飲み込もうとヒクついていた。

 そのまま蕾を押し開いて指先を押し込むと、普段恋人に触れられるよりも酷い異物感を感じた。それでも腹奥の疼きに導かれて、指を根元まで差し入れる。自身から溢れる先走りが割れ目を伝い、蕾を濡れそぼらせてくれるおかげで、異物感は少しだけ感じなくなった。

 それでも、いつも恋人が触れてくれる気持ちのいい位置までは、どうしても届かない。いつもなら、自分のよりも骨ばった太くて長い指が、もっと奥にある気持ちいいところを撫でてくれる。

 そして耳元で、いやというほど想いを伝えてくるのに。

 

「、っ…キャトロっ…キャ、トロ…」

 

 ゆっくりと目を閉じれば、視界いっぱいに恋人の顔が見えた。こちらが全身で反応を示すと、いつも少しだけ口元を緩ませ、優し気に眉尻を下げる。

 あまりにも愛おし気に見つめてくるものだから、その緋色の混ざる金色の瞳に絆されて、あられもない姿を晒してしまう。

 異物に慣れた頃に指は引き抜かれ、呼吸する間もなく、代わりに熱い性器が撃ち込まれる。痛みなど通り越して、与えられるもの全てが快楽になる瞬間だ。

 容赦なくこちらの体を貪ってくる姿を、愛おしいと思う。

 目の前にいる男の視界に映るのが、自分だけになっていく時間が、何よりも幸せだ。

 

『管理人……っ』

 

 吐息交じりにこちらを呼ぶ声はいっそう甘さを含み、艶めいた低音が耳奥まで届く。

 普段の生活では自分よりも余裕を見せることが多いのに、交わっているときはそんな余裕もなくなってしまうようだ。そういうところも、抱きしめたくなるほど愛おしい。

 

「キャトロ、っん……もうっ……ぁ、んんっ……!」

 

 背中を仰け反らすと、管理人は自身から白濁を吐き出した。

 震える四肢から余韻が抜けていき、ゆっくりと目を開ければ、目の前には暗い天井があった。

 一気に虚しさが襲ってくる。

 

「……キャトロ…」

 

 自らの中から指を引き抜けば、ゆっくりと半身を起こす。替えられたばかりだった黒いシーツには、自分が吐いた白濁が跡を残していた。

 そのままもう一度ベッドに体を横たえる。人のベッドを汚しておいてなんだが、今日はもうシーツを替える気力も、シャワーを浴びる気力もない。

 ぐしゃぐしゃになった恋人の部屋着に顔を埋めながら、管理人はもう一度ゆっくりと深呼吸をした。

 

 

 

 

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