熱い空気のせいで呼吸がしづらい。それでも目の前にいる何かに向かって、持っている剣を振り回した。石のような、岩のような、しかし虫のごとく動くその物体は、何匹もこちらに襲い掛かってくる。重い体を引きずりながら、必死に攻撃を避ける。しかし、四方から常に攻撃されていては、全部を避けきることはできない。鋭く尖った岩先が腕を裂いた。腕が焼け落ちてしまうのではないかと思うほどの燃えるような痛みが、指先から肩まで広がっていく。痛みに足を止めてしまえば、背中から、足元から、次々に裂くような痛みを感じる。全身に走る痛みの後ろには、死が間近に迫っていた。恐怖に動けなくなり、逃げたいのに思わず足が竦む。容赦なく襲い掛かってきた岩獣の群れに、目を閉じた。
「管理人っ」
そう強く呼ばれて、目を見開いた。目の前には、眉を下げながら見下ろしてくる恋人の姿。シーツを握る自分の手が震えていることに気づいたのは、大きく優しい手がそれを包んでくれたからだ。
「管理人、大丈夫か?」
やっと酸素が肺に入ってきた気がした。大きく深呼吸をしながら、恋人からの問いに頷いて見せる。
「だ、いじょうぶ……ちょっと、変な夢を見て」
「変な夢?」
「うん、モンスターに襲われる夢」
深く吐き出した吐息と共に、先ほどまで見ていた夢は記憶の中から抜け落ちてしまったようで、どんな状況だったか、どんなモンスターだったかも思い出せずに、とにかく襲われていたということだけしかわからない。
「、……ゲームのやりすぎだ」
相手が何か言いかけたような気がしたが、その一言だけを聞いて、寝る前までプレイしていたゲームを思い出した。そういえばゲームのボスが倒せなくて、何度も挑戦していたっけ。ぼんやりと寝る前のことを思い出していると、隣にいる恋人に抱き寄せられた。片腕を頭の下に置いてくれて、ゆっくりと髪を撫でてくれる。鍛えられた腕は枕と呼ぶには無骨で、けれどどんな柔らかな寝具よりも心地いい。指先から伝わる優しさが気持ち良くて、意識がふらついているのを自らの言い訳にしながら、逞しい胸元に甘えるように頬を寄せた。
「何も考えなくていい、今は眠れ」
頭上から聞こえる恋人の声と、髪に触れる唇。全身で安心させてくれる彼が、本当に好きでたまらなくなる。一生こうやって触れ合いながら、一緒にいたいと思う。誰からも祝福されなくても、ただ傍にいたい。
「俺は……ここにいる」
あぁ、きっと彼とは思考まで繋がっているんだ。もう何度も聞いた気がする恋人の言葉にすっかり安心したのか、先ほどまで腕も背中も足も、熱く燃えながら取れそうなほどの痛みを感じていたくせに、それをかき消すように全身に眠気が広がる。轟音も断末魔も聞こえない、焦げた血肉の匂いも死臭もしない。お互いの息遣いと、同じシャンプーや洗剤の良い香りだけが流れている。柔らかいシーツと、体温ごと全て包み込んでくれる腕に抱かれながら、管理人は再び眠りへと堕ちた。