Arknights:Endfield

Salty Over You

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タロⅡと宇宙とでは、時間というものの概念が違う。

四号谷地での調査任務の時よりも、むしろ帝江号で働いているときのほうが、どれだけの時間が経ったのかがわからなくなることがある。

そういえば、帝江号に戻って来たのはいつ頃だっただろうか。

端末の表示を追い続けていた視界をようやく上げ、ウルフガードは小さく息をついた。

「…休憩が必要か?」

疲労の様子を察知したのか、同じ部署に配属となっているポグラニチニクが声をかけてきた。

「いや、大丈夫だ」

こういった気遣いをしてもらうことに、未だに慣れない。

単独行動中は誰かに心配されることもなく、そんなことがあったのはまだ狼群で友人たちと任務を行っていたときくらいだ。

昔から、必要以上に他人と距離を詰めるのは得意ではない。

そして帝江号に来てからも、その性質は変わらなかった。

オペレーターとして最低限の連携は取れている。しかし、馴染んでいるかと問われると素直には頷けない。

他のオペレーターとの任務は、想像以上にやりづらさを感じる場面が多い。

それでも、帝江号での配属を任せてきた”彼”には、きっと思惑があるのだろう。

「お疲れ様」

不意に聞こえた声に、ポグラニチニクが端末から顔を上げた。

ウルフガードも”彼”の声がした方へ視線を向ける。

「管理人、ご苦労。調子はどうか?」

「うん、問題ないよ。君たちも大丈夫そう?」

入口に現れた管理人は、いつも通り穏やかさを滲ませるよう口端を上げた。

部署内を見回す管理人と一瞬目が合う。

ウルフガードが口を開くよりも先に、ポグラニチニクが口を開いた。

「管理人、貴殿に一つ提案がある」

せっかく交わった視線はあっさりと外れてしまった。そのまま管理人の視線もウルフガードの視線も、ポグラニチニクに注がれた。

軍人よろしく右肘を曲げ、上腕は体側につけたまま手のひらを管理人の方へと向けている。

しっかりと手を挙げて意見するあたり、傭兵と違って軍人はお行儀がいいなと、ウルフガードは思った矢先。

「オペレーターであるウルフガードが、少々の疲労を感じているようだ。休息を取らせるよう提案する」

「必要ない」

ウルフガードは思わず間髪入れずに返した。

先ほど受けた気遣いがこのような形になるとは予想していなかったのだ。

「休憩は必要な時にする。管理人、問題ない」

ウルフガードの言葉を聞きながら、管理人は腕につけた時計型の端末から配属時間を確認すると、二人に頷いて見せた。

「ポグラニチニク、ありがとう。確かに配属時間はもう過ぎているね」

「関係ないだろう…俺が大丈夫だと言ったら、大丈夫なんだ」

「これは帝江号にいるオペレーター全員の危機管理にも影響する。例外は無しだよ」

”組織”というものが好きではないのは、こういうところだ。自分の意思だけでは動けない時がある。

明らかに不満そうな様子のウルフガードが毛艶の良い耳をピンと立てる。管理人は少し悩むように口元に手を当てると、思いついたように再度ウルフガードへと視線を向けた。

「僕もこれから休憩するんだけど、その間の話し相手をお願いしたい…ってことで、どうかな?」

完敗だ。

こんな頼み事、断れるわけがない。

「………わかった」

納得はしていないものの、立っていた耳からふっと力が抜ける。

管理人は再度ポグラニチニクに礼を言うと、ウルフガードと共に管理人室に向かった。

「休憩するんじゃなかったのか?」

「もちろん、休憩しているよ」

管理人室にあるソファにきたものの、管理人はウルフガードの隣に身体を預けたまま、端末を開いていた。

傍らには、狼群自慢の太い尻尾。紺色を基調とした少し硬めの毛には白色がアクセントとなって混じり、特徴的な柄ができている。その尻尾を撫でながら、片手で端末をスクロールしていく。

「これは休憩とは言わないんじゃないか?」

「十分な休憩だよ。コルチゾール値が下がって脳内がクリアになってる感覚があるし、君の尻尾に触れてるとオキシトシンも出てる気がする」

「……そうか」

「要するにすごく落ち着くし、僕にはこれが一番の休憩なんだ」

「………そうか」

よくわからないが、とにかく管理人的には休憩できているらしい。

体を預けてくる管理人を無下にすることもできず、ウルフガードも何もしない時間をそこで過ごすことになった。

久方ぶりの、何もない時間が流れる。

しかし、残念ながら手持ち無沙汰は性に合わない。

横を向けば、寄りかかってくる管理人の首元が目に入る。分厚いコートが体を覆い、その下にはハイネックで隠された首元。

手持ち無沙汰と少しの悪戯心がその服に手をかければ、少し下へとずらす。

露わになった白い項に軽く歯を立てれば、驚いたように管理人が顔を上げた。

「っ…ウルフガードっ、」

「話し相手という割に、端末と見つめあっているだけじゃないか」

驚いている管理人の表情が変わる。その様子に、自分が恥ずかしいことを口走っていたことに気づいた。管理人はすでに気づいている様子で、どこか嬉しそうに顔を覗き込んできた。

「…もしかして、構って欲しかったってこと?」

「………手持ち無沙汰だった、だけだ」

事実を伝えたまでだが、構って欲しいと捉えられても仕方のないタイミングだった。

必死に紡いだ言い訳が白々しさに拍車をかけている。

とにかく視線を逸らすことしかできなくなったウルフガードの隣で、管理人が小さく笑うのがわかった。

お気に入りらしい尻尾を撫でる手を止めないまま、端末をソファに置く。空いた手を伸ばすとその柔らかい獣耳の毛並みをなぞり、そのままそっと頭を撫でた。

「心配してくれてありがとう。僕もちゃんと休むことにするよ。」

「、…そうしたほうがいい」

まるで子供のような犬のような扱いな気もしないでもない。

しかし管理人に触れられることには素直に嬉しさを感じる。

撫でることに満足したのか、管理人は尻尾を枕にするようにソファに横になった。

「10分したら起こしてほしい…君がいる時が、唯一安心して休めるんだ」

そういって口を閉じた。

尻尾の毛を軽く握り顔を埋めながら、まるで幼子のようにソファの上で器用に丸くなっている。

どうせしっかりとアラームをかけているくせに。

そう思いつつも、少しでも健やかな時間が過ごせればと、ウルフガードはその寝顔を優しく見つめた。

今回の任務は想定以上に長引いた。

大規模なクラン掃討作戦。チームでの任務だったため、普段よりも疲労が溜まっているように感じる。
帝江号に帰還した頃には認識できるほどに全身に疲労がこびりついていたが、それでも足は自然と管理人室へ向かおうとしていた。

報告書は、取り急ぎ口頭での報告が終わってからでよいだろう。

それよりも今はただ、管理人に会いたかった。

転送装置から管理人室に向かう道中、管理人の姿を見つけた。

最近着任したオペレーターのアレッシュと話す姿に気づき、ウルフガードはその場で足を止めた。

近距離で向かい合いながら、楽しそうに話す二人。

管理人の手は、アレッシュの尻尾に触れていた。

反射的に柱の端へと身を隠す。

自分も含め獣族たちは、ある程度親密な関係になった相手にしか尻尾や耳を触らせることを許可しない。

最近配属になったばかりのアレッシュと、いつの間にそこまでの仲になったのか。

任務で留守にする時間が長すぎたのかもしれない。そんな意味のない考えまで浮かんでくる。

「…、…」

二人の会話に思わず頭の上にある獣耳がぴくりと反応してしまう。

しかし、思ったよりも会話の内容は聞こえてこなかった。

やがて会話が終わると、管理人ではない靴音が聞こえてきた。

「…そんなとこで何してんだ、ウルフガード?」

柱の端にいる存在に気づくと、アレッシュは足を止めて不思議そうに目を丸くした。

「…なんでもない」

「管理人に用事があったのか?あいつなら、部屋に行ったぜ?」

何か動揺しているウルフガードの様子に気づいたのか、アレッシュはにやりと口元に笑みを浮かべながらウルフガードの肩に腕を回した。

「…可愛いなぁ、あいつ。オレのとっておきの”釣り方”を試したら、簡単に引っかかったぜ?管理人ってのは、あんな無防備でいいのかねえ」

耳元で挑発するように囁くアレッシュの言葉に、焔色の瞳が冷たく細まる。吊り上がったその目に睨まれ、アレッシュは楽し気に笑いながら腕を離した。

「そう怖い顔すんなって。なんなら、今日釣ってきた鱗獣をお前にもわけてやるからさ。獲れたてぴちぴちだぜ?」

茶化すように言うアレッシュを横目に、ウルフガードは足早に管理人室へと向かった。

ホログラムドア越しに、管理人が部屋にいるのを確認する。

普段なら部屋に入る前に一声かけるようにしているが、そんな配慮をしている余裕はない。

許可もなく部屋に入れば、部屋の中にいる管理人が振り返り、すぐにこちらへ歩み寄ってきた。

「ウルフガード、お疲れさ、」

管理人が言い終わる前に、その腕を強く掴むと壁に押し付けた。

壁に押し付けられた反動で、管理人が息を呑むのがわかった。

「っ…ウルフガードっ?」

「…どういうことだ」

喉奥から吐き出された声は、自分でも驚くほど低かった。

戦闘中、獲物を追い詰めたときのような声。

管理人が少し身を竦めたのがわかる。

ウルフガードは距離を詰め、源石リミッター越しに管理人の真意を覗き込むようにその緋色の瞳を近づけた。

「アレッシュに、何をされた」

「アレッシュに…?何もされてないよ?とりあえず、話をっ」

最後まで聞く前に、噛み付くように管理人の口を塞いだ。吐き出されるかもしれない言い訳を溢さないよう、口内に舌を捩じ込む。ぬるりと舌を捕える。しかし口内を蹂躙する舌に管理人は抵抗を見せ、無理矢理顔を逸らそうと首を横に振った。そのせいで口端に強く当たった犬歯が、柔らかい唇の端を切りじわりと赤くなる。皮膚が切れた感覚が犬歯から伝わり、ウルフガードは唇を離した。口端に血を滲ませる管理人の姿にやっと冷静さを取り戻すと、掴んでいた腕を離しながら眉を顰めた。

「っ…は…」

「…、…すまない」

「…普段冷静な君が…らしくない」

口端を手の甲で拭いながら、管理人の声はひどく冷静だった。

怒るわけでもなく、責めるわけでもない。

それがまたウルフガードの胸奥をざわつかせる。

「アレッシュとのやり取り、見てたんだね」

管理人の言葉に、さきほどのアレッシュとのやりとりが思い出される。

普段自分に向けてくるような柔らかい笑み、そして繊細な部分へと触れる優しい手。

分け隔てなく仲間たちに施されるものであることは、頭ではわかっている。

しかし、とっくに育ってしまった管理人への執着心が、それを理解しようとしない。

「…アレッシュとも、そういう仲なのか…?」

自分たちの関係性を示唆する言葉。

恋仲である自分と同じような気持ちを、アレッシュに向けていたとしたら。

思いつめたようなウルフガードの様子に、管理人は驚いたように何度も首を横に振った。

「誤解だ。そんなこと絶対ない」

「…明らかに態度がおかしかった。その…尻尾にも、触れていただろう」

獣族にとって敏感な部分に触れさせることは、信頼の証だ。

もちろん自分以外の種族たちと接する機会もあり、それぞれがみな管理人を慕っている。

そうなれば、他の獣族が自らの獣毛部分を触れさせたとしても、不思議ではないが。

珍しく歯切れ悪く言葉を吐きだすウルフガードに、管理人はどこか得心したように息をついた。

「それで怒ってるのか…尻尾は、アレッシュが触っていいって言ったからだよ」

「獣族系のやつらは、基本的に心を許したやつにしか触らせない」

「まだここに来て日は浅いけど、それなりに信頼してもらえるようになったみたいだ。さっきは釣りの話をしていたんだよ」

予想外の答えに、ウルフガードは目を丸くした。

しかし、そんな風には到底見えない距離だったが。

「大きな鱗獣を釣ったんだって。釣り方について聞いてたんだ。尻尾を使って獲物をおびき寄せることもあるみたいだよ」

先ほど聞いたばかりであろう知識を話してくる管理人の様子に、どうやら話していた内容は嘘ではないらしい。

ウルフガードは深く息を吐くと自分の顔を片手で覆った。

「…それは本当か?」

「もちろん本当だよ」

源石リミッター越しにこちらをまっすぐ見つめてくる管理人から思わず視線を逸らす。

管理人を本気で疑っているわけではない。

しかし、今回は任務で仕方なかったとはいえ、会えない時間が長すぎた。

棘づいた心の処理の仕方がわからない。

人の心は移ろいやすいものであることは、理解している。

管理人の立場上、さまざまな人と接することもわかっている。それにここには優秀かつ魅力的なオペレーターが多いのも事実だ。いつ何時、どこへ気持ちが流れてしまうかはわからない。

「信用できないなら…」

何も言わないウルフガードに痺れを切らしたのか、管理人は腕を伸ばすとそのまま腕を首に回してきた。そして耳元に唇を寄せると、そっと吐息を漏らす。

「…確かめてみるかい…?」

お互い分厚いアウターやインナー、グローブも剥ぎ捨て、くまなく管理人の体に触れる。

四号谷地の荒野に長くいたとは思えないほどのきめ細やかな白い肌は、ウルフガードの骨張った手先によく吸い付き、一度直接触れればその感触の虜になる。

平たい胸にある飾りを指先で転がせば、甘やかな嬌声が管理人の薄い唇から漏れる。

「っ、キャトロ…そこ、ばっかり…」

先ほどから胸の突起ばかりを撫でるウルフガードに向けて、嬌声の合間に不満を漏らす。

しかしウルフガードの指先は突起をいじるのをやめず、今度はもう片方の突起へと吸い付いた。

柔らかくも弾力があるそれに、優しく可愛がるように舌を絡ませる。軽く吸ってやれば薄い体を仰け反らせ、小さく震える姿は小動物のようだ。

「はっ…だめ、キャトロっ…もうっ…」

言うや否や、腕の中にいる管理人の体が大きく何度か跳ねる。深く息を吐くのと同時に、薄くグレー色に光る瞳が揺れながらこちらを見つめてきた。

「…早いな」

「あ、たりまえだっ…久々なんだから…」

恥ずかしさのせいか悪態混じりに言い放つ管理人は、手で顔を覆った。いじらしいその様子に自分の体の熱も上がっていくのを感じ、ウルフガードは管理人の下肢を纏う布も取り去った。抵抗されるかと思ったが、精を吐き出したばかりで力の抜けた管理人は素直にその濡れた下肢を晒した。

「俺がいない間、他の奴に触らせていないだろうな?」

「それを確かめてもらうために、してるんだろう…?」

問いに問いで返してくるあたり、まだ余裕がありそうだ。

管理人の細い脚を開かせ、閉じないよう脚の間に体を滑り込ませる。

先ほど精を放った管理人自身は、自分の精に濡れて艶を帯びていた。そこを伝い後ろへの道筋を濡らす白濁のおかげで、きつそうに閉じた蕾が余計に卑猥に見える。ウルフガードは手を伸ばすと、濡れた蕾を指先で何度か撫でてから中指の先を差し入れた。途端に管理人が驚いたように息を呑み、蕾がきゅっと締まる。

「っ、キャトロ…っ…痛っ…」

「俺のを何度も受け入れているのに、指くらいで痛いのか?」

確認するように含みをきかせた問いに、管理人は不満そうに眉を寄せた。眉間の皺が深まるのを見て、更に奥を探るように指を突き入れる。反応を見る限り、ここに何かをされたような形跡はなさそうだ。管理人は更に抵抗するように、目の前にいるウルフガードの首に腕を回すと、無理矢理引き寄せ顔を覗き込んできた。

「痛いに決まってるっ…こんなとこ、君しか触らないし…長い期間、触れ合ってないじゃないか…」

ここ何カ月も逢瀬の時間がなかったのは事実だ。

お互い別任務で別行動の時間が長かった。おかげで余計な疑念から、少しの不安を覚えてしまったのだが。

そのまま管理人はウルフガードの肩口に顔を埋めると、頬を首筋に擦り付けた。

「おかげで君の形、忘れちゃってるよ…早く、もう一度…」

「、…煽るな…」

抱き着いてくる管理人の体を、再びシーツに預けるようにそっと肩を押す。

シーツに散らばる黒髪がやけに艶めいて見えて、思わず指の動きが早くなった。

自分も相当余裕がないんだと、焦っていることを頭の中で理解し、その情動に食われないよう努めて、増やした指も使い丁寧に蕾を押し拡げる。

長い指をきつそうに飲み込むそこは、まるで奥へ誘い込むように何度も収縮を見せた。

ウルフガードも自分の呼吸に熱が籠るのを感じているが、だいぶ狭くなってしまったそこをできるだけ解そうと、熱い入口を指で何度も割り開いていく。

ちょうど敏感な部分に触れたのか、管理人の漏らす吐息の甘さが一段階あがった。

「んんっ、…!」

「ここか…」

反応を見せる箇所を何度も指先で擦る。

こちらから与える刺激に素直に声をあげる管理人の姿は、ひどく扇情的だ。

目元にかかる黒髪から覗く瞳はすでに欲に支配され、揺れながら、しかし何かを訴えるようにこちらを捕えてくる。

早くその瞳も、声も、体も、すべて食らいつくしてしまいたい。

「ッ…ぁ…キャトロ、っ…」

薄くなる理性をつなぎ止め、湧き上がる衝動をせき止めていたのもつかの間。

「…早く、もうっ…」

縋るように見つめてくるその薄青を含んだ灰色の瞳に、押し殺していた衝動がとうとう牙を剥いた。

荒っぽく指を抜き去ると、下腹に滞る熱を伝えるように下肢を押し付ける。

「入れるぞ…んっ…」

熱を持った欲の証を取り出せば、先端はすでに先走りで滑っていた。

まだ狭い管理人のそこへ宛がうと、狭い肉壁を押し拡げながら一気に奥まで突き入れる。

久々の痛みと刺激からか、管理人の背中が弓なりに反りながら侵入を拒むようにきつく締め付けてきた。

「んぁっ…キャ、トロっ…!」

「ッ…平気か…?」

体に負担をかけていることは重々承知している。

しかし心配する言葉とは裏腹に、欲のままに揺れてしまう腰は止まらない。

ぐちゅっと濡れた音を立てながら何度も奥を突かれ、管理人は上擦った声をあげながらウルフガードの下で声を上げた。

「はっ、ぁっ…キャトロっ、はげしっ…」

喘ぐ管理人の唇の端から、また血が滲む。

塞ぎかけていた表層が切れ、唇の細かい皺を伝って広がっていく。

傷つけたいわけではないのに、自分がつけてしまった傷も愛おしい。

全て自分のものなのだと、もっと自信を持って言いたいはずなのに、しかしどこか子供じみた嫉妬心で揺らいでしまう。

喘ぐ管理人に唇を寄せ、滲む血を舐めとると深く口付ける。

滑る舌を絡ませ、喘ぎ声さえ貪る。

このまま全部食らいつくすことができたら、安心できるのだろうか。

「んっふ…んっ…、っ…きゃとろ、好きっ…君だけ、だよっ…」

唇を少し離してやれば、今欲しい言葉をくれる。

何度も伝えてくる管理人の言葉に、細かな棘を抱えてざらついていた心が和らいでいくのを感じた。

今度はそっと労わるように優しく口付けると、赤くなっている口端が嬉しそうに少しだけあがった。

「…愛してる、キャトロ…っ」

「あぁ…俺もだ、管理人っ…」

まるで体ごと混じり合うように、熱い喘ぎと吐息が絡み合う。

深く繋がりあいながら押し寄せる熱に攫われた二人は、どちらからともなく甘い痺れと共に果てた。

「君でも状況判断を間違える時があるんだってことがわかったよ」

「…すまない…」

ウルフガードはシーツに包んだ管理人の体を後ろから抱きしめながら、何度目かわからない謝罪をした。

普段ピンとしている毛艶の良い黒耳はすっかり項垂れてしまい、自慢の大きな尻尾は力なく、しかししっかりと管理人の体を守るように巻き付いている。

「あの状況だけ見たら…君が誤解するのもわかる。それに、君は人を信用することに抵抗があるのに、余計な疑念を抱かせてしまったのは…僕の責任でもある」

巻き付いている尻尾を何度も撫でながら、管理人は先ほどのアレッシュとのやり取りを再度思い出していた。

ウルフガードと共に任務にいっていたオペレーターたちが帰ってきたと聞き、転送装置まで出迎えにいくつもりのところ、たまたまアレッシュに出会った。

普段よりも機嫌が良さそうだったアレッシュに事の真意を聞けば、大物の鱗獣を釣ったそうだ。

釣り方についていろいろと聞いているうちに、尻尾を使って釣る技法もあると聞いて、いい機会だと触らせてもらったのだ。そしてたまたま、その現場にウルフガードが居合わせてしまった。

ウルフガードは他オペレーターとあまり関わらないため、管理人がまさか新入りのオペレーターとそこまで早く親密度があがっているとは知らず、掻き立てられてしまった嫉妬心を止める術もわからないまま、現在にいたったというわけだ。

「管理人の対人スキルを甘く見すぎていた…」

「大袈裟だ。話しているうちに、いつの間にか仲良くなっているだけだよ」

こういうところが人たらしたる所以なのだろう。

いいところでもあり、恋人としては心配すぎるところでもある。

「アレッシュの尻尾も触り心地はよかったけど…余計に君に会いたくなった。やっぱり、この触り心地じゃないと安心できない」

尻尾に触れながら好き勝手にわしゃわしゃと毛を撫でる管理人に、ウルフガードは自分の中に自覚してしまった嫉妬心というものが再度掻き立てられるのを感じ、先ほどまで力なく預けっぱなしにしていた尻尾を突然振ると、管理人の手から逃れた。

「あ…」

「管理人」

心地よい触り心地がなくなってしまい、思わず声を漏らした管理人の顔を焔色の瞳が覗き込む。

「尻尾、だけなのか?」

酷く真剣な表情で尋ねてしまったせいか、不意に管理人が小さく吹き出した。

「まさか、自分の尻尾に嫉妬してる…?」

「そのまさかだったら、どうするつもりだ」

真剣な声音で被せてくるウルフガードに、管理人は体ごと向き直ると腕を伸ばし、優しく頭を撫でてから獣耳を撫でた。

「君自身が大切だって、何度でも伝えるだけだ」

優しく響く管理人の声音に、ウルフガードは抱きしめる腕に力を込めた。

応えるように抱きしめ返してくる管理人に、胸の奥が熱くなる。

それは先ほどまでの嫉妬で焼かれるような痛みのある熱さではなく、光で照らされた柔らかい暖かさだった。

離れていた時間を埋めるように、二人はただ抱き合い続けた。

「お、ウルフガードじゃねぇか」

「…アレッシュ…」

帝江号で他オペレーターとすれ違うのは仕方のないことだとはいえ、せめてあと数日は会いたくなかった相手と出会ってしまった。

そう、元はといえば彼が変な言い回しをしていたのがいけなかったのだと、ウルフガードは内心ヒリつく感情をぐっと押し殺した。

「あれから管理人への用事は無事に済んだのか?」

「お前には関係ない」

「そんな連れねえこというなって」

アレッシュは先日と同じようにウルフガードの肩に腕を回そうとしたが、寸でのところで避けられてしまった。

「…お前のおかげで散々だった」

「そうなのか?いや~、管理人に釣りの方法を教えてただけなんだけどなぁ。かかったのは管理人じゃなくて、お前だったか?」

「…どういう、意味だ」

無愛想な眉があからさまに吊り上がる。

しかしアレッシュは楽しそうに口端をあげながら、わざとらしくため息をついた。

「釣りの話からの延長で尻尾の話になったんだが、あんな無防備な顔して人の尻尾触りながら『待ってる人がいるんだ』なんて言われてみろ。相手は誰だろうって釣りあげたくなるだろうが。『もっともふもふしてる』とか、『もっと毛量が多い』とか言われたオレの身にもなってみろ。可哀想ったらねえよ」

”釣りの話をしていたんだ”

管理人はそんなことを言っていたはずだが、まさかの内容に先ほどまで無愛想だったウルフガードの表情が少し緩むと、それを隠すように口元に手を当てながら視線を逸らした。

表情は隠しているが、まったく感情は隠れていない。

アレッシュは目の前にいる無愛想な男の後ろでぶんぶんと空を切る立派な尻尾の存在を見た。

「こりゃ、えらいもんが釣れちまったなぁ…」

鱗獣よりも、よほどたちが悪そうだ。

アレッシュは一人呟きながら、高い帝江号の天井を仰いだ。

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