Arknights:Endfield

One Mate, One Life

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「蕎花カプセルは持ったの!?あと、お腹がすいたとき用の谷地パイと…あ、フルーツの激辛塩漬けも持って!」

「…食い物ばかりじゃないか」

「どうせまたしばらく帰ってこないんだから、食料はいっぱいあればあるほどいいの!任務を成功させるためには、任務中もよく食べてよく寝ることが大事なのっ!」

今日もルピーノ兄妹は、微笑ましいやりとりをしている。

ロッシがエンドフィールドと合流してからというもの、中枢基地は以前よりずっと活気が出たように感じる。甲高い声で兄を呼ぶ音や、作業員に自らデータの見方を教わりに行く様子、他オペレーターと楽しくお喋する様子や走り回る足音が聞こえるたび、少しだけ無機質だった空間に華やかさが加わり、中枢基地に響くロッシの声はすでにお馴染みとなっていた。

その変化は兄であるウルフガードにも及んでいた。以前なら必要以上に他人と関わろうとしなかったが、今では任務帰りに他のオペレーターと足を止め、短く言葉を交わす姿も珍しくない。

「…まぁたルピーノ漫才してるの?」

そのやりとりを2階から見ていた管理人は、ゆっくりと近づいてきたチェンに視線を向けた。

「ルピーノ漫才?」

「あの二人、やりとりがいつもギャグみたいなんだもん。管理人もそう思わない?」

チェンからの指摘に、改めて2人の様子を見つめる。

本気で怒っている様子のロッシと、明らかに面倒臭そうに聞き流しているウルフガード。確かにちぐはぐな2人だが、傍から見たら息が合っているようにも見える。

「いいよねえ、ほんと家族って感じ。あ、もちろんあたしにとっては、管理人も含めてエンドフィールドのみんなは家族だけどねっ」

「…家族、…」

その言葉だけが、妙に耳に残った。

目の前の二人からは、独特の距離感が感じられる。

それはきっと、”家族”という関係性が織りなすものなのだろう。

それをどのように感じたのか自分自身でもよくわからず、管理人は小さく視線を伏せた。

「ロッシに見つかったら、また追いかけ回されるんじゃない?」

「もちろん、そうならないように撒いてきた」

資料の整理をしていると、いつの間に入ったのかウルフガードの姿があった。

部屋の外の様子を最後まで警戒してから、きっちりと扉を閉める。

中枢基地での管理人の部屋は、二階の隅にある使われていない角部屋だ。死角にあり、気づかれにくい場所にある。休息を邪魔されないようにと、シン主任が気を利かせて敢えてわかりづらい部屋を用意してくれたのだ。それが功を奏してか、ここに来る者は滅多にいない。もちろんペリカやシンなど、一部のオペレーターや中枢スタッフはこの部屋を知っているものの、何かあればまずは端末に通信が来る。突然扉を開けられる心配はほぼない。

「…管理人」

ウルフガードと恋仲になってからまだ日は浅いものの、同じ拠点で過ごす時間ができた時は、なるべく逢瀬の時間を作るようにしていた。

ウルフガードは任務の都合上、長い期間拠点に戻らないことも珍しくない。しかし、会いたいと思う気持ちはウルフガードも同じようで、任務と任務の間にはこうして会う時間を作ってくれる。

歩み寄ってきたウルフガードに管理人自らも距離を詰めるよう歩み寄れば、その腕の中に閉じ込められた。

久しぶりの体温と香りを確かめるように、管理人はその腕の中で大きく息を吸った。

同じように、髪や耳元、首筋と順番に匂いを確認してくるウルフガードの様子にどこか犬っぽさを感じて、管理人は小さく笑った。

「牙獣みたいだ」

「なんでもいい…俺なりの、バイタルチェックだ」

顔を上げると目の前には端正な顔と鮮やかな色の瞳。

源石リミッター越しにもわかる、燃えるような紅と、深く沈んだ緋が混じる不思議な瞳。

その瞳に引き寄せられるようにお互いの顔が近づく。

自然と開かれた唇が重なろうとした瞬間、ウルフガードの獣耳が動き、不意に動きを止めた。

「……キャトロ!!」

叫び声と共に勢いよく扉が開く。

そこにはマントのような赤い服を翻しながら仁王立ちするロッシがいた。

「…どうしたの、ロッシ?」

今にも噛みつきそうな勢いで立っていたロッシだったが、突然目の前に現れた管理人の姿に、途端に頬を真っ赤にしながら顔を隠すようにフードを深々と被った。

「かかか、管理人っ!?あのっ…もしかしてここって、管理人のお部屋ですか!?」

「うん、そうだよ。中枢基地にいさせてもらうときは、ここを借りてるんだ」

「えええ!わ、私知らなくてっ…勝手にドア開けちゃって、すいませんでしたっ!あのっ、実はキャトロを探してて…匂いを辿ってきたら、ここだったので…!」

「ウルフガードなら、さっきまで一緒に任務の打ち合わせをしていたけど、もう出かけてしまったよ」

「そうなんですねっ!すすす、すいませんでしたっ!」

ロッシはしどろもどろのまま何度も頭を下げると、バシンっと扉を閉めて足早にその場を後にした。

ドア越しに足音が聞こえなくなれば、管理人は大きく肩を使って深呼吸をした。

「…出てきていいよ」

管理人が視線を向けた先には、荷物で散らかっているデスク。膨大な資料のおかげで、デスク周りはダンボールの山で囲われていた。最終的に遠くに響く足音が聞こえなくなったことを確認してから、ウルフガードはゆっくりとデスクの下から出てきた。

「大層な演技だったな、管理人」

「ロッシが来たことにも驚いたけど、君がすごい速さで隠れたことの方が驚きだったよ」

「潜入任務で培った技術が、まさかこんなところで役立つとは思わなかったけどな」

肩についた埃を軽く手で払いながら、ウルフガードはため息混じりに呟いた。

普段、管理人と二人で話しているところに他のオペレーターが参加してきた時は、静かに不満をその尻尾の動きで表しているくせに、久々の逢瀬を邪魔されて怒らない辺り、やはりロッシにはだいぶ甘いらしい。

「…ロッシは、本当に君のことが好きなんだね」

「どうだか。その点は怪しい節もある」

「そんなことはないと思うよ。君たちは家族なんだから」

まだ幼いロッシにとって、いちばん強く拠りどころにしているのは、きっとウルフガードなのだろう。過酷な環境を共に生き抜いてきたのだということは、二人のやりとりを見ていればわかる。

「僕は、家族っていうものがどういうものか…よくわからないから」

自分がどうやって生まれて、どうやって生きてきたかもわからない。

そんな管理人自身に”家族”というものがわかるわけもない。

それを悲しいと思っているわけではない。

けれどウルフガードとの関係が変わってから、管理人は時折その言葉を考えるようになった。

正確には、”家族という関係性を思っていた以上に自分が気にしていることに気づいた”のだ。

「…まぁ俺も、家族っていうものの真髄がわかっているわけじゃない。ただ、俺はもう…管理人のことは、家族だと思っている」

ウルフガードの言葉に、管理人は先ほどチェンから聞いた言葉を思い出した。

”もちろんあたしにとっては、管理人も含めてエンドフィールドのみんなは家族だけどね”

家族。

一般的には、血縁で結ばれた集まりを指す言葉だ。

けれどもっと大きな意味で捉えるなら、血の繋がりではなく、同じ場所に身を置き、支え合い、帰る場所になるもの。

エンドフィールドに流れている目に見えない繋がりを思えば、それはきっと間違っていないのだろう。

「そうだね…エンドフィールドの一員なら、みんな家族だ」

チェンの理論通りなら、確かにウルフガードも管理人も家族だ。初めは利害関係で繋がった狼群とエンドフィールドだが、ウルフガード自身もエンドフィールドに大いに貢献し、その行動からこの組織を重んじてくれているのを感じる。

口元を綻ばせながらそう返すと、ウルフガードは一瞬だけ目を丸くしたあと、困ったように視線を逸らした。首元を掻きながら、何か言いにくいことでもあるようにわずかに間を置く。

「その……俺としては、組織としてという意味じゃなく…」

言いづらそうにする理由がわからず、管理人は不思議そうに小首を傾げた。

管理人に伝わっていないと悟ったのか、ウルフガードは再びその体を抱き寄せ、少し低い位置から自分を見上げる管理人に、そっと口付けた。

「こういうことをうまく伝えるのは、苦手なんだが…、…番という意味で言っている」

「つがい…?」

「狼は、一生同じ番で連れ添うんだ。俺は一度そうなったら、他の誰かを見る気はない……だから、お前にもできればそうでいてほしい」

ウルフガードは、少し赤くなった目元を隠すように視線を逸らしながら手の甲を頬に当てた。

ようやくその言葉の意味するところを理解した管理人は、どこかくすぐったい気持ちのまま、顔を隠すその手をそっと取る。

「君以外の誰かなんて…そんな気、最初からないよ」

管理人は応えるように言うと、そっとウルフガードに口付け返した。

「これから、君のいう”家族”ってものをたくさん教えてもらわないとね。改めてよろしく、キャトロ」

「あぁ、こちらこそ…管理人」

ウルフガードは小さく頷いて見せると、抱きしめる腕に力を込めた。

「君と番になるってことは、ロッシとも家族になるってことかな?ロッシにはどうやって伝えればいいんだろう」

「…追々考えるか」

ロッシに二人のことを打ち明けるのは、また別の話。

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